大浴場の運営において、人件費は経営を左右する大きなコスト要因です。
限られた人材でサービス品質を維持しつつ、効率的な運営を目指すには、スタッフ配置と業務分担の見直しが欠かせません。
本記事では、温浴施設向けに顧客のニーズに合わせた商品を開発・提供している【ダイレオ】協力のもと、人件費を最適化するための具体的な配置法や成功事例、最新の設備活用法まで解説します。
省コストかつ安心安全な施設運営を実現したい施設管理者や設計担当者は、ぜひ参考にしてください。
大浴場の人件費管理で見逃せない視点

人件費率は変動要素が多く、施設ごとに異なる
大浴場を運営するうえで、人件費は水道光熱費と並ぶ主要なランニングコストです。一般的に温浴施設の人件費率は売上に対して25〜30%程度が目安とされますが、これはあくまで参考値であり、実際には施設の規模や立地、サービス内容によって大きく変動します。
たとえば、営業時間が長く接客業務が多い都市型のスーパー銭湯では、スタッフの配置や役割分担が複雑になり、人件費がかさみがちです。一方、地域密着型の小規模浴場や、高齢者施設に併設された浴室などでは、運営内容が限定的であるため、人件費を抑えやすい傾向にあります。さらに、地域ごとの最低賃金や、スタッフの雇用形態(正社員・パート・アルバイト)によってもコストに大きな差が出るため、一律での基準設定は難しく、施設ごとの個別最適化が必要です。
スタッフ配置は収益構造を左右する右する
人件費はコントロール可能な費用である一方で、特に「スタッフをどの時間帯・場所に配置するか」という設計次第で、施設の収益性が大きく変わってきます。過剰に人を配置すれば無駄なコストが発生し、逆に人手が不足すれば、清掃の行き届かなさや顧客対応の遅れなどによってサービス品質が低下し、リピート率や売上に悪影響を与えるリスクがあります。
人件費を単なる「削減対象」として扱うのではなく、価値を生み出すための投資と捉えることが重要です。適切なスタッフ数を、適切な時間と場所に配置できれば、無駄な支出を抑えながらも高品質なサービスを維持する運営が可能になります。
人手不足と定着率の低下がコスト増を招く
近年、温浴施設業界でも他産業と同様に人手不足やスタッフの定着率低下が深刻な課題となっています。若年層の採用が難しくなっているうえ、夜間や週末などの勤務に対応できる人材も限られているため、1人あたりの業務負荷が増加しやすくなっています。
このような環境下では、スタッフの離職率が上がり、採用・教育コストが何度も発生するという悪循環に陥る危険性があります。このリスクを抑えるには、業務の標準化やマルチタスク化の推進、働きやすい労務環境の整備が欠かせません。さらに、業務プロセスの見直しや省力化設備の導入によって、人に依存しすぎない体制づくりも求められます。
サービス品質とのバランスを取る判断力が問われる
人件費の抑制を図るときに必ず意識すべきなのが、サービス品質とのバランスです。大浴場は単なる機能空間ではなく、「癒し」や「安心」を提供する空間であり、その価値は清掃の丁寧さや受付の接遇、トラブル時の迅速な対応といった目に見えないサービス力によって支えられています。
スタッフ数を減らしすぎると、施設の雰囲気や安心感が損なわれ、利用者満足度が低下してしまうおそれがあります。重要なのは、どの業務を効率化・自動化し、どの業務に人の力を残すかを見極める判断力です。戦略的に業務設計と人員配置を行うことで、人件費と品質のトレードオフを最小限に抑えることが可能になります。
大浴場の人件費を最適化するための配置戦略
ピーク時間帯に合わせた柔軟な人員シフト
大浴場の利用には曜日や時間帯によって明確な傾向があり、平日午前中は空いていて、夕方以降や休日に集中しやすいという特徴があります。こうしたパターンを見極め、混雑する時間帯に人員を重点的に配置することが、人件費の最適化には欠かせません。
この戦略を効果的に実行するには、過去の利用履歴や予約データなどをもとにした「利用傾向の見える化」が重要です。ピーク予測に基づいて必要な人員数を算出し、過不足のないシフト設計を行えば、効率的かつ計画的な配置が可能になります。また、繁忙期と閑散期で異なる運営体制を組み替える柔軟性も、無駄な人件費を抑えるうえで有効です。
マルチタスクで実現する柔軟な業務分担と効率化
大浴場では受付や清掃、安全確認、備品補充など多様な業務が発生します。これらを業務内容や優先度に応じて分類し、それぞれに適したスタッフを配置する「業務分担」は、人材を無駄なく活用する基本です。
さらに、1人のスタッフが複数の業務に対応できるようにしておけば、急な欠員や混雑にも柔軟に対応できます。たとえば、フロント業務と物販を兼ねた「受付担当」や、複数浴室を巡回して点検と清掃をこなす「巡回管理担当」などの体制は、少人数でも現場全体をスムーズに回すうえで有効です。
このようなマルチタスク型の人員配置は、過剰な人手を抱えることなく運営効率を高める手段として、今後ますます重要になるでしょう。
受付・清掃・設備点検の作業見直し業見直し
人件費が膨らむ背景には、現場業務の非効率も関係しています。手書きでの受付台帳、一定間隔で一律に行う清掃、アナログな点検管理などは、見直す余地のあるポイントです。
たとえば、受付にはQRコードや自動精算機を導入すれば、スタッフ数を削減しつつ待ち時間も短縮できます。清掃業務についても、混雑状況に応じて重点的に行ったり、自動洗浄装置を導入したりすることで、作業の時間と頻度を最適化できます。
また、点検業務はスマホやタブレットを使ったチェックリスト共有で、1人で複数エリアを効率的に管理できる体制が構築できます。これにより、従来よりも少ない人数で安全性を確保することが可能になります。
パート・アルバイトと正社員の役割設計正社員の役割設計
人件費を効率よく運用するには、雇用形態ごとの業務配分を工夫することも大切です。定型業務や短時間対応が中心の作業には、パートやアルバイトを活用し、緊急対応や判断力が求められる業務には正社員を配置するといった使い分けが効果的です。
たとえば、午前中の軽作業や夜間の施錠などはパート職員が担い、設備異常の判断やクレーム対応といった高度な対応には経験あるスタッフを充てることで、サービスの質を維持しながらも人件費の無駄を防ぐことができます。
このように、業務の内容と人的リソースを照らし合わせた最適配置こそが、人件費削減とサービス品質のバランスをとる上で不可欠です。
成功事例から学ぶ大浴場の人件費最適化の実践法

地方施設でも効果を発揮するスマートシフトの活用
地方の温浴施設では、採用難や人員不足の課題を抱える中で、限られたスタッフで効率的な運営を行う必要があります。そこで活用されているのが、利用状況に応じた「スマートシフト」の導入です。
これは、曜日や時間帯別の来館傾向をデータで把握し、それに応じて人員配置を最適化する手法です。午前中は清掃と点検に重点を置き、午後からの混雑時間帯に受付や案内の人員を厚くするなど、メリハリある配置が実現できます。
このようなシフトは、定員配置のムダを省くだけでなく、スタッフ1人あたりの業務負荷軽減にも貢献します。とくに地方施設のように限られた人材を最大限に活かすには欠かせない戦略といえるでしょう。
高齢者施設併設型での夜間無人管理の工夫
高齢者福祉施設やリハビリ施設などに併設された大浴場では、夜間の利用頻度が低いことから、夜間帯における無人管理体制の構築が現実的な対応策となっています。
たとえば、一定の時間帯以降は自動施錠・退場センサー・緊急通報装置を組み合わせることで、夜勤スタッフを配置せずとも安全性を確保しながら施設運営を継続できます。浴室内の温度・水位・給湯状況などを遠隔でモニタリングするシステムを導入すれば、スタッフの巡回を省くことができ、人件費削減につながります。
重要なのは、利用頻度の低い時間帯の人員を削るだけでなく、代替手段で安全性と品質を補完する工夫です。
マルチタスク体制で業務を集約し、緊急対応力を高める
スタッフが複数業務を横断的にこなせるようになることで、業務の幅が広がり、少人数でも現場を安定的に運営しやすくなります。特に人手不足が続く中では、1人が受付・点検・簡易清掃といった複数の役割を担えることが、トラブル対応や業務の穴埋めに強い組織作りにつながります。
このような体制を構築するには、業務マニュアルの整備や、業務ごとの習熟度を可視化するOJTの仕組みが不可欠です。属人化を避け、誰でも必要な業務に対応できる状態を目指すことが、運営の安定化と人件費の最適化に大きく寄与します。
マルチタスク体制の強化は、柔軟な運営力と緊急対応力の両立を図るうえで、今後さらに重要になるでしょう。
混雑状況データを活用した省力運営
近年、温浴施設においても利用者の混雑状況をリアルタイムで把握するセンサーやIoT機器の導入が進んでいます。これにより、スタッフは「混む時間」と「空く時間」の傾向を把握できるようになり、人員の最適配置や業務スケジュールの効率化が可能になります。
たとえば、入場者数の変動に合わせて清掃頻度を変えたり、混雑時間帯には案内スタッフを増やすなど、“人が必要なタイミングだけ配置する”運営体制を実現できます。
さらに、利用者自身が混雑状況をスマートフォンで確認できる仕組みを提供すれば、来場タイミングの分散化が図れ、結果としてスタッフの業務負荷軽減にもつながります。
こうしたデータドリブンな運営は、省力化とサービス向上の両立を目指す上で今後ますます重要になると考えられます。
大浴場のスタッフ配置を支える設備とシステム
自動水位制御での安全省力化
大浴場における給湯と水位管理は、スタッフの点検・調整に多くの時間と労力が割かれる業務です。これに対して、自動水位制御機器を導入することで、日々の管理業務を大幅に簡素化できます。
たとえば、設定した温度・水位を自動で維持するシステムであれば、常時監視の必要がなくなり、異常発生時のみアラート通知が届くため、監視要員の配置を不要に近づけることが可能です。また、誤操作や異常加熱といったリスクも低減されるため、安全性の観点でもメリットは大きいです。
こうした設備は、スタッフの業務負担を軽減しつつ、事故やトラブルの予防にも貢献する点でコスト対効果が高い投資といえるでしょう。
スマホ対応の遠隔制御による巡回省略
施設内の温度、濾過ポンプの状態、給湯ユニットの運転状況などを、スマートフォンやPCから一括でモニタリング・操作できる遠隔制御システムの導入が進んでいます。
このような仕組みがあることで、わざわざ各機器を現場まで確認・操作しに行く必要がなくなり、巡回業務を最小限に抑えることが可能です。特に広い施設や複数浴槽がある施設では、スタッフ1人あたりのカバー範囲が拡大し、人員配置の最適化にも直結します。
また、クラウド連携型の遠隔制御では、異常発生時の通知をスマホに即時送信できるため、問題の早期発見・早期対応が実現し、トラブルの長期化や事故のリスクも軽減されます。
混雑可視化センサーと自動入場管理の活用
温浴施設では、利用者の流れに応じた人員配置が重要です。そこで活用されているのが混雑状況の可視化センサーやカメラ型人数カウントシステムです。これらの設備を設置すれば、施設側はリアルタイムで「今、どの浴槽がどの程度混んでいるか」を把握できます。
加えて、予約制やQRコードによる自動入退場管理システムを組み合わせることで、受付スタッフを常時配置せずともスムーズな入場管理が可能となります。これにより、受付業務の無人化・半自動化が実現でき、配置人員の削減につながるのです。
利用者側にも混雑情報を公開することで来場のタイミングを分散させやすくなり、ピークの偏りを防ぐ副次効果も期待できます。
定期作業の自動化による人員削減効果
大浴場の運営では、日々の清掃・濾過・塩素濃度の調整など、定期的なルーチン作業が発生します。これらを自動化機器で代替することで、常時人手が必要だった業務を最小限に抑えることができます。
たとえば、自動塩素供給装置を用いれば、濃度チェックや薬剤投入といった工程を自動で制御できるため、薬剤管理の手間と人的ミスを同時に削減できます。
このように、設備投資によって人件費を変動費ではなく固定的に抑える仕組みを持つことが、持続可能な施設運営の鍵となります。
まとめ|大浴場の人件費削減とサービス維持の両立へ
大浴場における人件費の最適化は、単なるコスト削減ではなく、施設運営の効率化とサービス品質の両立を図る戦略的な取り組みです。本記事では、人件費が経営に及ぼす影響を整理し、スタッフ配置の工夫や設備導入による省力化の手法について具体的に解説しました。
特に重要なのは、利用傾向に応じた柔軟なシフト設計、スタッフ一人ひとりが複数の業務を担当できるマルチタスク体制の構築、そして遠隔制御や自動管理機器の導入による作業負担の軽減です。これらの対策を組み合わせることで、少人数でもサービスの質を維持しながら効率的な運営が可能になります。
限られた人材の中でも高品質なサービスを継続するには、「人に依存しすぎない運用設計」と「人が力を発揮しやすい業務環境の整備」が欠かせません。今後の温浴施設経営においては、こうした視点で人件費のあり方を見直し、持続可能な運営体制を構築することが求められます。